2013年度通訳ガイド1次試験の分析と攻略法

皆さん、今回の通訳ガイド1次試験の手ごたえはいかがでしたでしょうか。
まず、全体的に常識的に読解力、理解力を働かせて解答できる問題が多かったようです。
今までと違い、語句の英訳15問が20問の選択肢からの選択式になり、また、長文読解の量も短くなり、1-5の内容把握問題や2-3の下線部訳が選択式という様に、半分の問題がマークシート方式に移行したことで、従来の記述式より、必然的に正解率が上がることとなり、ここでの大きな点差はつきにくくなっています。合格ラインに達するかどうかは、記述式の4,5,6の英文和訳、和文英訳の出来が大きく影響することになります。
さて、それでは問題の分析に入りましょう。

問題 1.文章読解力の基本を問う問題です。

まず、問題1-1  本文1行目In contrast to (A) culture, that aspect of culture which is not easily visible and is not readily noticeable is called “(B) culture.”から (A) と (B)は逆の内容なので、選択肢①④は消えます。not easily visible でnot readily noticeable な”(B) culture.”はcovert culture と言えます。これで選択肢②③は消えます。この具体例と説明が、この後、(A)culture (=overt culture )と対比しながら最後までに続き、最後の2行で~easily overlooked,~often unawareとヒントを述べた後、結論の最終文でNoticing this (C) side is the key ~.とcovert cultureをまとめています。よって⑥は消え、正解は⑤になります。<解答>⑤

問題1-2は、「道具」という基本語の同義語を選ぶやさしい問題。<解答>②tool

問題1-3の並べ替えは、直前文が、Nowadays the Japanese are accustomed to using spoons ~. But if one observes~. と逆説関係なので、「日本人のスプーンとフォーク(こういった道具)の使い方は、西洋人(のそれ)とは異なる」という意味の文を作ります。ここでのポイントは主語をOccidentalsでなく、their use にするということと、代名詞の使い方(that of)です。their use of these utensils is slightly different from that of Occidentalsとなります。
<解答>(3) ⑦ use (4) ③ from (5) ⑤ that

問題1-4ですが、文章の論理的展開を示すディスコースマーカー(In contrast, on the other hand, instead of等)の基本的使い方を問う、やさしめの問題。まず、空欄(1)に入る語は、前後関係から対照的内容をつなぐ語句です。選択肢③④にあるinstead ofは後に動名詞、名詞が続く前置詞句なので文法的に不可です。(insteadだけなら副詞なので文法的には可。ただし、ここでは文脈上不可。)よって、選択肢①か②on the other handが残ります。次に空欄(2)の直後にはsucking in the liquid, he or she (=an Occidental) pours it in with the tip of the spoon -とあり、前段落の最終文にhe or she (=a Japanese) sucks the liquid into his or her mouthとあるので、ここを受けた対照的内容と判断し、空欄(2)はinstead ofで決まりです。even thoughは文法的にも、意味上も合いません。この時点で答えは②と決定できます。後は空欄(3)(4)にはin addition to とeven thoughが当てはまることを確認します。(3)this,there~のthisの指す内容は直前の(2 instead of)sucking in the liquid,he or she (=an Occidental) pours it in with the tip of the spoon であり、直後にthere are other differences-とあるので、西洋人の日本人との違いを追加して述べていることから、空欄(3)にはin addition toが入ります。空欄(4)の直後はJapanese and Occidentals may be using the same cultural itemsと節があり、続く主節はthere are structural differences that are easily overlooked.とあり、逆の内容を述べているので、空欄(4)には逆接、譲歩の従位接続詞even though(~とはいえ、たとえ~でも)が入る。
<解答>② on the other hand- instead of- in addition to- even though

問題1-5
 
全体的に分かりやすい段落構成の文章で、結論部が最後にある。
1段落 日本のcovert cultureの具体例
2段落 対比的に西洋のovert cultureの具体例
3段落 1,2段落を受けた結論段落  
最後の文でNoticing this (C) side is the key to understanding other cultures. とあるので、thisが指す、この前の文Culture is composed of innumerable minute habitual behavior patterns, of which people themselves often unaware.~が結論の最も言いたい内容である。よって③が正解。
ちなみに、選択肢①は1段落3行目にyoung people in particular can handle them (=spoons and forks) as well as they can chopsticks.とあり、不正解。
②は「言語表現の相違に気づくことが必要」という記述はないので不正解。④も記述が無いので不正解。
<解答>③ 通常は気づかない、文化ごとに異なる細かな慣習的行動パターンに意識を向けること。

問題2.
問題2-1

通訳ガイド試験対策の勉強の中で出てくる基本語彙です。重要な表現は発信レベルで言えるようにしておきましょう。
<解答> (8) ⑥ 神  (9) ② 祖霊信仰

問題2-2

時間制限のある中で解くにはかなり難しい問題です。
次の問題2-3を正解すれば、「神道には唯一絶対的価値観がない」から、後半はShinto contains no absolute (sense of values)と気がつくのですが、文頭をThe factから始めると文にならずダメで、S(主語)V(be動詞)C(補語)の倒置文→CVSのパターン、かつ、文頭のCがof importance (=important)となることに気づけるかがキーポイントで、二重に難しくしてあります。(CがOf importance for Japanで、Vが(is)、Sがthe fact that Shinto contains no absolute (sense of values)とCが長くなっているための倒置でしょう。)
倒置文は英文解釈では意味が取れても自分で作るとなると、慣れていないと難しいものです。試験を難しくする場合に狙われやすい文法事項ですので、要注意です。
<解答>(10) ⑦ importance  (11) ① the fact  (12) ⑤ no

問題2-3

thisとitの指す内容の把握がポイントです。問題2-2と絡めた問題で、文脈から主語thisは前文のthe fact以下Shinto contains no absolute (sense of values)「神道には唯一絶対的価値観がない」を指すと分かります。(Judeo-Christian traditionは”the words and rules of God”といったabsolute (sense of values)の例として引き合いに出されているだけです。)ここで選択肢は③④のどちらかに絞られますが、to coexist with other value systems that have entered Japan from the outside. から③に決定です。
ただ、この問題が記述式であった場合には訳出上、当然考えなければならないことですが、itの指すものがJapanかShintoかで少し迷います。選択肢③の日本文の主語は、文頭の「神道には」から自明なので、(または問題作成者が「神道は」と主語を記した、不正解の①②④に受験者を誘導するため?)③の後半部は主語「神道は」があえて省略されていると考えます。つまり①②③④全て主語は「神道」です。
もし仮に、itがJapan「日本」を指すとするならば、選択肢③の日本文後半部の主語「日本は」をあえて入れていないことになり、正解の選択肢としては良くない、誤解を招く文ということになります。また、前文全体のShintoの説明の流れからすると、Japanがcoexist with other value systems するというより、accept other value systemsするのであって、本文2行目のThis belief system(=Shinto)がcoexist with other value systems とするのが、共存する対比物が同じsystemなので自然です。
この後に続く出典の文章を確認しますと、案の定、ShintoとBuddhism, Confucianismと がcoexistするという展開になっておりました。
<解答>③ 神道には唯一絶対的な価値観がないことから、日本に流入してきた新たな価値体系と共存できている。

問題3 

選択肢を絞り込む力をためす、受験者に点数をとらせるための問題です。過去の記述式と違い、点差のつきにくい部分となっており、合格には8割の12問は確保したいものです。
通訳ガイドとして知っておくべき基本語彙がほとんどで、日常的に見られる語彙ばかりですね。選択式テストでは認識さえ出来れば良いのですが、この試験の目的を考えれば、必ず発信レベルで使えるようにしておきましょう。
<解答>
(1) 網だな ⑥ overhead rack
(2) 絵文字 ⑨ pictogram
(3) 旅程表 ⑫ itinerary   
(4) 地図帳 ⑦ atlas
(5) 太陽電池 ① photovoltaic cell   
(6) 堀 ⑮ moat
(7)(鵜飼いの)鵜 ⑬ cormorant   
(8) かがり火  ⑧ bonfire
(9) 幕府 ⑳ shogunate   
(10)(鳥の)サギ ⑪ heron
(11) 柿 ⑤ persimmon   
(12) 特需 ③ special procurement
(13) 気象予報士 ⑩ certified meteorologist
(14) 地上波 ④ terrestrial signal  
(15) 香(こう) ⑭ incense

問題4-1

文法的には素直な、英文和訳問題です。
ポイントはwith rulers~subjectsは付帯状況で、主文とはexercisingの主語が異なる(ここではJapanese society に対してrulers)ということを示します。(分詞構文が後に続くが、withを置くことで、主文と主語が違うことを示していると考えればいいでしょう。)付帯状況の基本的な意味は「~が~した状態で」ですが、前にBecause従属接続詞「~なので」があるため、後ろから訳した場合、減点されず、かつ、自然な訳にするには、少々、工夫が必要です。付帯状況には補足説明として単にandの意味で使われる場合もあり、~, with rulersの前にカンマがあるので、 and rulers exercised~と訳せばいいでしょう。どちらの訳をとるにせよ、Because Japanese society was authoritarian in nature, with rulers exercising godlike power over there subjects, の訳出上の注意点は、Because がsubjectsまでかかるような訳にすることです。
Becauseが導く節を受ける主節はit became customary for people to give gifts to those in authority~で、習慣化したものは、to give gifts~です。人々が権力者に贈り物をすることが習慣的になったということです。
<解答>
もともと、(本来、元来、本質的に)/日本社会は権威主義的であって、/権力者、(支配者)が/臣民(人民、被支配者)に対し/神のごとく(~ような)権力/を振るった(行使した、振りかざしていた)ため、/人々(人民)が、/権力者に贈り物をすることが/習慣となった(習慣化した)のである。

問題4-2

The 比較級(A) , the 比較級(B)のパターンの構文に, and the 比較級(B’)が並列されている。((A) であればあるほど(B)であり、かつ(B’))
(A) The higher / the authority figures, /
(B) the more important / it was / to give them gifts, /
and (B’)the more protocol / there was / in selecting, wrapping, and presenting the gifts.

(2) The higher高い地位にあればあるほど / the authority figures, 権威者が(figureは「人物」で動詞ではない。動詞rank「地位にある」が省略されている)/ the more important it wasより重要になり(重要であったし)(itは形式主語)、 / to give them gifts,彼らに贈り物をすることは(to以下が真主語) / and the more protocol より多くの儀礼上の作法(しきたり)が/ there wasあったのだ / in selecting, wrapping, and presenting the gifts.贈り物の選定、包装、贈呈に際して(において、をする時に、場合に)

<解答>権威者が/高い地位にあればあるほど、/権威者に贈り物をすることは/より重要なことになり、/贈り物の選定、包装、贈呈の際には、/より多くの/儀礼上の作法があった。

問題5-1

2012 年に/開業した/東京スカイツリーは、/地上634 メートルの高さに/そびえ立っている。/東京タワーは333 メートルであるため、/およそ2 倍の高さである。

「開業した」はopen/ be opened / start its operation /
「そびえ立っている」は
rise to (the height of) 634 meters /
stand at 634 meters (~high, tall) /
have a ( towering, soaring )height of 634 meters /
東京タワーは333 メートルであるため、の「ため」は「であって」ぐらいの意味で、明確な理由をあらわすものではない。BecauseやSinceで表現した場合、翻訳なら不可ですが、テストなら許容されるか、減点と思われます。

<解答>
(The) Tokyo Sky Tree, / which started its operation / in 2012, /
rises to (the height of) / 634 meters (from the ground). / It is about twice as high as (またはtwice the height of) the Tokyo Tower, / which is 333 meters high.

問題5-2

修学旅行は、/生徒が視野を広げ、/学習した知識を/実際の社会経験と/
結びつける/またとない機会である。/同時に、/生徒同士の団結力を養う/
という意味合いも含んでいる。/最近では、/修学旅行で海外に行く/学校が
増えている。

「修学旅行」school excursion / school trip
「視野を広げ」widen (broaden) their views (~perspective, scope, horizons)
「学習した知識」what was (has been) learned from a textbook (what they have learned at school)
「実際の社会経験」practical (real-life, firsthand, hands-on, actual social) experiences.
「と結びつける」 「AをBに応用する」apply A (to B ), 「AをBに関連づける」associate A (with B), link A (with B),
「実際の社会経験と結びつける→活用する、実際に応用する」
put [turn] 《knowledge》 to practical use

「またとない機会」 (a good, a golden, a unique, the best ) opportunity
「団結力を養う」(develop, foster, nurture, cultivate, encourage) テストではこのあたりが良いが、「養う→喚起する、助長する」と考えた場合、以下もありうる。(arouse, cause, create, bring about, evoke, build, increase, strengthen, reinforce, boost)

「団結力」
a feeling of solidarity, a cooperative spirit, a sense of unity (~of togetherness,~of oneness),

「意味合いも含んでいる→も意図されている、目的もある,役に立つ」と考えれば、
be also intended to, be also meant to, helpあたり。

「修学旅行で海外に行く」
go overseas on a school trip / go on a school trip abroad /
make (go on) a school excursion abroad
これは、主語が本来は人間であるべきなので、「修学旅行で海外に行く学校」→「修学旅行に海外を選ぶ学校」more schools choose foreign countries for their school tripとするのが良いでしょう。「修学旅行で海外に行く学生」では「学校」が抜けて、主語が変わるので良くない。「修学旅行で海外に学生を連れていく学校」とすると、主語は変わらず、長くなるが可能。「学生」を入れても、減点対象にはされないでしょう。more and more schools are taking their students abroad for their school trip (more and moreを主語にする場合、動作動詞は進行形が原則) / The number of schools that take their students~is increasing.

<解答>
A school trip (~excursion) is a golden opportunity for students to broaden (widen) their perspectives (~views, horizons) and to apply
what they have learned at school to real-life experiences.( ~turn what they have learned from school to practical use.) At the same time, it is also meant to encourage (~develop) a sense of unity ( ~a cooperative spirit ) among the students (~among them). These days, more schools choose foreign countries for their school trip. (~ are taking their students abroad for their school trip.)

問題6
簡潔に情報をまとめて、表現できるかがポイント。2~3行で30語位で良い。

(1) お年玉

A だれにやる何なのか money (-gift) given to children
B だれが渡すのか by their parents and relatives
C いつ渡すのか at the New Year / during the New Year holidays / during the New Year period
D どのように渡すのか enclosed in a small decorative envelope (packet, pouch) / ( with the name of the receiver written on its face )
E 他の特長は The amount of money given depends on the age of the child / It was said to be a custom born from rice cakes dedicated to the deities at New Yearなど

A,B,Cは必須事項、次にD,Eのどれかを述べ、語数を30語位に調整する。
<解答例>
Otoshidama is a money gift given to children by their parents and relatives. It is enclosed in a small decorative envelope. The amount of money given depends on the age of the child.

(2) 風呂敷

A どんな形の何なのか a square wrapping cloth
B 材質や外観は made of silk or cotton / made from variety of materials including silk, cotton, and synthetic fabric with designs depending on the use. / decorated with various patterns / has traditional pictures painted on it
C どういった機能か traditionally used to carry things such as gifts and clothes
D 他の特長は convenient because it is light and compact / can wrap almost everything / compact when folded and good for reuse / can be folded up small after use / can be folded into a small square when not in use / Recently it has been reevaluated as awareness about environmental protection rises.
E 由来は used to wrap clothes at a public bathhouse in the past

A,Cは必須事項、次にB,D,Eのどれかで、語数を30語位に調整する。
<解答例>
Furoshiki is a Japanese square wrapping cloth traditionally used to carry things such as gifts and clothes. It’s very convenient because it can wrap almost everything and can be folded up small after use.

さて、問題分析はお役に立てたでしょうか。
結論として、冒頭にも述べましたが、今回2013年は前年度に比べ、問題の半数が選択式になったため、正解率の上昇が予想され、受験生の予想平均点は、昨年より約10点上昇の60点あたりになると思われます。よって、予想合格点は、プラス10点の70点前後でしょう。国交省のガイドラインには、平均点を60点程度に、絶対評価で70点を合格ラインとなるように努めるとあり、今回は、ほぼこの理想基準に近いレベルの1次試験となっています。
この選択式50%、記述式50%の出題形式はこれからも続くと考えられますので、記述式となる英文和訳、和文英訳を確実に得点できるようにすることが、今後、合否を左右する大きな要素になることは確かでしょう。また、通訳ガイド語彙対策も合格後のことを考えれば、認識でなく、発信語彙として使えるようにしておきましょう。今回、残念ながら、一次合格に届かなかった方も、合格されて二次試験に進む方も、以上を参考に、次のステップに向けて頑張っていただきたいと思います。

それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。

通訳ガイドクラス講師 田中達也

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